トレーダーのみなさん、こんにちは。
今回はアメリカのISM製造業・非製造業景況指数とは一体どんな経済指標なのかを簡単に解説します。
月の初めに必ず発表されるISM。
ただ発表された数字だけを見ていませんか?
もはや発表直後、結果を見ずにチャートだけを見ていませんか?
確かに、発表された数字がどうれあれ、みなさんの生活に直接的な影響を及ぼすわけではないですが、トレーダーである以上、ある程度は知識を身につけておきたいものです。
ISMとは一体どんな経済指標なのか?なぜ重要なのか?どこに注目すればいいのか?
こんな素朴な疑問にお答えします!
さあ、月初の恒例、ISMをきちんと理解したうえで、その月のトレードのいいスタートを切りましょう!
ISM製造業・非製造業景況指数とは
そもそもISMって?
毎月月初に発表され、アメリカの景気を占うISM製造業・非製造業景況指数。
そもそも「ISM」とは何か。
ISMとはアメリカの全米供給管理協会(ISM=Institute for Supply Management)のこと。
なんとISM製造業景況指数は、1931年以来の伝統がある、とても権威のある指標なのです。
(※2001年以前はNAPM(=National Association of Purchasing management)指数)
ちなみに「非」製造業のほうは新しく、1997年より集計が始まっているようです。
産業の構造がサービス業に傾いてきたのは、歴史的に見れば最近のことですから当然ですね。
1931年から集計してるって凄いですね!
その2年前の1929年は世界恐慌ですから、相当権威のある指標だということが分かります。
ISMはなぜ重要?
ISM製造業・非製造業景況指数はどうして重要指標とされているのでしょうか?
挙げられる理由の一つとして、「主要指標のなかでは、その月で最も早く発表されること」があるのはもちろんなのですが、もう一つ大事な理由があります。
それは「ISMが製造業・非製造業それぞれ300社以上の購買担当役員にアンケート調査を実施して数値を出している」ということ。
購買担当役員は製品を作るための原材料を仕入れる役割をもつ人たち。彼らは各社にとって極めて重要な役割をもつ人たちです。
彼らは常に世界経済に敏感であり、様々なファクターを考慮したうえで、どれだけ原材料が必要かを考えていますからね。
だからこそISMは、アメリカの、ひいては世界の景気を占う先行指標として極めて重要な指標なのです。
なるほど、購買担当役員さんは常に世界経済とにらめっこしているわけですね。
そういうことです。景気が悪い、もしくは悪くなる兆候があるのにガンガン仕入れたら余計に損しますからね。彼らは常に、景気の見通しを見据えているのです。
購買担当役員にされる「アンケート調査」とは?
先ほど、ISMは300社以上の購買担当役員にアンケート調査をしていると書きました。
では一体どんなアンケート調査をしているのでしょうか。
製造業・非製造業はそれぞれ若干項目が違いますので、別々に見てみましょう。
まずは製造業。
- 新規受注(New Orders)
- 生産(Production)
- 雇用(Employment)
- 入荷遅延(Supplier Deliveries)
- 在庫(Inventories)
- 顧客在庫(Customer’s Inventories)
- 仕入価格(Prices)
- 受注残高(Backlog of Orders)
- 新規輸出受注(New Export Orders)
- 輸入(Imports)
続いて非製造業。
- 事業活動(Business Activity / Production)
- 新規受注(New Orders)
- 雇用(Employment)
- 入荷遅延(Supplier Deliveries)
- 在庫(Inventories)
- 仕入価格(Prices)
- 受注残高(Backlog of Orders)
- 新規輸出受注(New Export Orders)
- 輸入(Imports)
- 在庫変動(Investory Sentiment)
- 顧客在庫(Customer’s Inventories)
ほとんど似ていますが、製造業のみ「生産」、非製造業のみ「事業活動」「在庫変動」があります。
これらをそれぞれ各社購買担当役員に回答してもらい、集計した上で指数を算出しているわけです。
指数の算出方法とは?
ここの話は少し複雑ですので、飛ばしてもらっても構いません。
先ほどアンケートの項目を紹介しましたが、各社の購買担当役員には、前の月と比較した上で、「良くなった(Better)」、「変わらない(Same)」「悪くなった(Worse)」の3つの選択肢から1つ選択してもらいます。
ISMはこれらの回答を集計し、各項目のDI(ディフュージョン・インデックス=Diffusion Index)というものを作成します。
DI?なんですか、それ?
下の例を見てみてください。
(ISMのDI算出の例)
例えば、ある1つの項目について①良くなった、②変わらない、③悪くなったの3択を100社に回答してもらったとします。その結果が
①「良くなった」:20社(全体の20%)
②「変わらない」:60社(全体の60%)
③「悪くなった」:20社(全体の20%)
だったとします。
そこで以下の計算式を使います。
DI=「①良くなった」+「②変わらない」÷2
※「③悪くなった」は計算から除外。
そこで、例のDIは計算式にならうと
DI=20+60÷2=50
となります。DIが50ということは、景気判断は「中立」となります。
(「良くなった」も「悪くなった」も両方20社ですから、的確に表せたことが分かります。)
そして各項目のDIを算出したのち、それらを加重平均した上で総合指数を算出するわけです。
また難しい言葉・・・。か、か、加重平均?
経済指標の加重平均は、特に「季節調整」の意味合いで用いられます。単に数字を足し算する単純平均より、季節・時期を考慮した加重平均の方が、より景気を的確に表すということです。
ISMはココに注目!
総合指数は分岐点に注目!
さて、ISMのことを簡単に理解できたうえで、結局どこを見ればいいの?という話をしましょう。
まず、トレーダーが真っ先に見ることができるのが、もちろん総合指数ですよね。
総合指数の簡単な見方としては、「50」が大きな分岐点と言われています。
つまり、指数が50を上回っていれば「景気拡大」、下回っていれば「景気後退」というわけです。
そしてもう一つ、大事な分岐点があります。
それは「42.9」。
ISMによれば、GDPのプラス成長の分岐点は50ではなく42.9だそう。
指数が50、さらには42.9を下回った時、アメリカの経済は後退していると判断できるということです。
ちなみに、製造業景況指数で過去42.9を下回った月は、リーマンショックのダメージを受けた2008年11月〜2009年6月、そしてコロナショックのダメージを受けた2020年5月の計7回。最低値は2009年1月の32.9です。
これを見るに、よっぽどのことがない限り42.9は下回らないということが分かります。
まずは最低限の知識として、指標が発表されたら50と42.9の2つの分岐点を意識してみましょう。
ISM製造業景況指数はPMIに注目!
総合指数だけではなく、もう少し深掘りしたい!
そんな方へ、もう一歩踏み込んで解説します。
みなさんはPMIという言葉、聞いたことがあると思います。
PMI=Purchasing Managers’ Index、日本語に訳すと購買担当者景気指数です。
これはISMにおけるメイン指数となっています。
先ほど、アンケート調査の項目は製造業なら10項目あると書きました。
その10項目のうち、新規受注・生産・雇用・入荷遅延・在庫の5項目をPMIと呼ぶのです。
例えば、新規受注が好調であれば、製造業には明るい未来が待っているだろうし、雇用が好調であれば製造業における労働市場が堅調であると推測できます。
各項目の詳細は、ISMのHPにレポートとして掲載されますので、時間があるときに見てみてください。(指数発表と同時にレポートが掲載されるわけではありません。)
この記事のまとめ
今回の記事では、ISM製造業・非製造業景況指数を簡単に解説してみました。
最後にもう一度、大事なポイントは
・ISMはその月において最も早く発表される指標であること、300社以上の購買担当役員にアンケート調査を実施して数値を出しているということにおいて重要な指標である。
・景気拡大・後退の分岐点は50。GDPのプラス成長が見込めるのは42.9が分岐点。
・購買担当役員に行うアンケート項目のうち、新規受注・生産・雇用・入荷遅延・在庫の5項目はPMIと呼び、注目度が高い(製造業景況指数のみ)。
でした!
それではまた、別の記事でお会いしましょう!